インタビュー
「コンプレックスが魅力であることに気づいて」ライター大木亜希子×芸人ネクスト古崎瞳が語る、アイドルのセカンドキャリアの見つけ方【元アイドル対談】
『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』
今回お話を伺うのは、衝撃的なタイトルの書籍が話題のフリーライター・大木亜希子さん。かつてはSDN48のメンバーとして紅白歌合戦にも出場した大木さんは、芸能界引退後、WEBメディア『しらべぇ』を運営する株式会社NEWSYに入社。3年間の会社員生活を経て、フリーランスとなりました。
アイドルのセカンドキャリアを取材した『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』(宝島社)に続き、2冊目の著書が発売され、WEBメディアでも連載を持つなど目覚ましい活躍の大木さん。しかし、かつては自分自身もセカンドキャリアを見つける過程で、大変な苦労をしたそうーー。
その紆余曲折のストーリーは大木さんの著書に譲るとして、今回は大木さんの友人であり、元グラビアアイドルの株式会社俺・古崎瞳が対談。数々のアイドルたちの転機に寄り添い、そして自分たちも今まさにセカンドキャリアを歩んでいる2人に、「アイドルのセカンドキャリア論」を語ってもらいました。
<プロフィール 大木亜希子さん(通称:あーちゃん)>
ライター/タレント。2005年、ドラマ『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)で女優デビュー。数々のドラマ・映画に出演後、2010年、秋元康氏プロデュースSDN48として活動。その後、タレント活動と並行し、ライター業を開始。2015年、しらべぇ編集部に入社。2018年、フリーランスライターとして独立。著書に『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』(宝島社)、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住むことにした』(祥伝社)。
<プロフィール 古崎瞳(通称:ひとみん)>
1986年生まれ、広島県出身。2006年上京。レースクイーンとして芸能界デビュー。13年間グラビア、女優、タレント業など芸能活動をし、2019年引退。一般企業への転職活動時に人材紹介業のビジネスモデルを知って感動し、現在は株式会社俺にて法人営業、キャリアカウンセラーを務める。「芸能活動が職歴として見なされない世の中を変えたい」と、元お笑い芸人、元アイドルの転職支援に奮闘中。
元アイドルが一般企業で働くのはムリ?
古崎:今日あーちゃんに相談したかったのは、アイドルや芸人の方が、どうしたら次のキャリアを前向きに見つけられるかということ。
私はいま、そういう“夢を諦めた”方たちの就職支援をしているんだけど、「自分は会社員になんてなれない」と思っている人が想像以上に多くて。
「芸能だけでやっていくのはしんどいから、何か新しいことを始めなきゃ」と思って相談には来てくれても、「やっぱり自分には無理だから」ってフェードアウトしてしまう人が多いんだよね。
でも、それは、私もわかる気がしていて。芸能の仕事をしていたときは、「そもそも会社員が何をやっているかわからないから、自分には無理だ」って私自身も思ってたから。
あーちゃんはアイドル時代、会社員の仕事に対してどんなイメージを持ってた?
大木さん(以下、敬称略):マネージャーさんのやること、っていうイメージかな。新幹線や飛行機のチケットを取ったり、クライアントとのやり取りをしてくれたり。
自分が会社員になるということは、そういう、いわゆる“大人”がやることを、自分がやらなきゃいけいないんだと思っていたかも。
古崎:“大人”がやることか……。たしかにそうかも。だから、あーちゃんが先に就職したって聞いたときは、すごい!って純粋に思ったんだよね。パワポ作れるなんてすごい!って(笑)
大木:今考えると全然すごいことではないんだけど、ビジネスメール・パワーポイント・ワード・エクセルは、やっぱりビジネススキルの基本中の基本だった。でも学校で習っていないと、それ以外で触れる機会って全然なくて。そこはリアルに困ったよね。
古崎:私は会社員になって約半年が経つけど、ビジネスメールはいまだに苦労しているんだよね。「こんな返事をしたら失礼に当たらないかな……?」って、いちいち考えちゃう。
それは私たちだけじゃなくて、就職した元芸人さんや元アイドルの方もそう。最初は、パワポやエクセルが使えなくて困った人は多いみたい。
大木:みんなそうなんだね。でも、思うんだけど、パワポとかのスキルって、ビジネスの世界でやっていく上での“入り口”でしかないと思っていて。それをやったことがないから「自分は会社員向いていない」と言ってしまうのは、ちょっと違う気がするんだよね。
自分ではなかなか気づけないかもしれないけど、アイドル時代に培ったスキルで、ビジネスでも役立つものってたくさんある。きちんと挨拶するとか、人の名前や誕生日を覚えて忘れないとか、人よりも美容にお金かけていれば、もちろん見た目も含まれると思う。
実際、私が『アイドル、やめました。』で取材した元アイドルは、みんな生き生きしていたし、「あのころの経験があるから今がある」って話してくれた人が100%だったよ。
古崎:本当にそうだよね。あーちゃんが取材した人も、私がインタビューした人も、新しい道を見つけた人たちはみんな輝いている。
だから求職者の人たちは、今はどん底かもしれないけど、もう一歩、二歩踏み出せれば状況はよくなるはず。そこを、立ち止まってしまっているんじゃないかと思うんだよね。
“やりたいこと”の見つけ方は2パターン
古崎:あーちゃんはどうやってやりたいことを見つけたの?
大木:アイドル時代から「140字のツイートが面白い」って言ってくれるファンの人がいたの。でも、当時はそんなの何の役にも立たないと思ってて。
卒業してから「元48の大木亜希子です」って名乗るときも、それって昔のことを言っているだけだなって。「じゃあ、今の自分のアイデンティティは?」ってずっと考えてた。
そのあと、地下アイドルの仕事も辞めて、いざ次の道を見つけざるを得なくなったときに、自分の文章を褒めてくれた人たちがいたことが頭をよぎったんだよね。「そういえば自分は文章が得意なんだ」って気づいてから、すがるようにして文章を書く仕事を見つけて、運良く就職できた感じかな。
だから、自分にはなんの個性もないと思っているような子でも、そんなことはきっとないから、ポジティブに自分の武器を探してほしいって思う。
古崎:その「ポジティブに自分の武器を探す」っていうのは、決まったやり方はあるのかな?
大木:ひとみんはどうやって今の仕事にたどり着いたの?
古崎:私は今の会社で人材紹介の営業として働いているんだけど、そのきっかけは、友達に紹介してもらった会社で営業のバイトをやってみたことだったんだよね。
テレアポだからほとんど断られるんだけど、「どうしても会ってください!!」ってお願いしたら、なんとか会ってくれたお客様がいて(笑)。結局契約には至らなかったんだけど、すごい達成感があった。何より、人と喋れるのが楽しくて。
この経験があったから、「私は営業向きだ」って気づけたのかも。
だから自分には得意分野がないと思っている子でも、行動してみたらやりたいことが見つかるってことはあると思うんだよね。
大木:やりたいことは、ひとみんみたいに自分で行動して見つけるか、人に見つけてもらうかだよね。
SDN時代に感じたのは、アイドルって、周りの人が「こうしたらいいんじゃない?」ってアドバイスしてくれる立場でもあるということ。常に人から見られる仕事をしているわけだから、ファンの方々や、マネージャーさんやスタッフさんに「私の得意分野って何だと思いますか?」って聞いてみるのがいいかも。
古崎:たしかに、そのやり方はいいかも!
でも、アイドルだからこそ、「自分は何もない」って思っちゃう部分もあるのかなと思っていて。たぶん、自分の持っているスキルをみんなも持っている環境にいるからなんだよね。
面談していて思うんだけど、アイドル活動をしている人たちって、“努力をする癖”がついている人が本当に多い。曲のフリを完璧に覚えたり、表情を研究したり、動画をたくさんアップしたり……。でも、そういう積み重ねが当たり前の世界にいるから、そのすごさに自分自身が気づけていなくて。
努力の仕方がよくわかってない会社員もたくさんいる中で、そのスキルは活躍する世界を変えてもきっと活かせるはずなんだよね。「一回外に出てみればわかるのに」ってすごく思う。
大木:本当、外に出てみるとわかるよね。今芸能をやっている人なら、空いている時間に副業をやってみるのはいいかもしれない。会社員もアイドルも、副業は当たり前の時代だから。
でも正直、「自分は何もない」って思ったまま、なかなか一歩踏み出せない人の気持ちもわかるんだよね。本にも書いたけど、私も昔は自分に自信をもてなくて、その自信のなさを隠すように見てくれだけ綺麗にしてバイトに出かけていたこともあったし。
自分の持っているものを見つけられない状況になっちゃてるのは、たぶん自分に自信が持てないことも影響しているんじゃないかな。
「つい人と比べてしまう……」自信ってどうすれば手に入る?
古崎:自信を持てなくなっている人って、どうすれば自信を取り戻せると思う?
大木:そもそも芸能界って、自信を持ちにくい世界ではあるよね。自分よりかわいい子はいっぱいいるし、オーディションに落ちるのは日常茶飯事だし、収入も不安定だし……。そんななかで、私は知らぬ間に「人と比べる癖」がついちゃってたんだと思う。
でも人と比べていると、いつまで経っても自己肯定感を持てなくて。私は“人生詰んだ”経験があったから、やっと人と自分を比べなくなったんだよね。
今は自分が立派になったとは思わないけど、自分らしく生きている気はしてるかな。ひとみんは?
古崎:私は根本的にすごく自信があるんだよね(笑)。地元の広島から上京したときも、「絶対成功するから!」って大手を振って出てきたぐらいだし。
そんな私でも、会社員になってみると、経験がないことに関しては自信がないかな……。たとえば、最初に言ったメールの返信とか。でも、経験を積めば解決することだって感じてる。だから、最終的になんとかなると思ってる時点で、やっぱり自信はあるんだよね(笑)
大木:ひとみんらしくていいね。経験がないうちは、自信がないというか、不安になることはあるよね。私も「五月雨式」(さみだれしき)が読めなくて、自信をなくして母親に連絡したら、「今までどれだけ修羅場をくぐってきたと思ってるの!」って喝を入れてもらったことがある(笑)。
ひとみんは自信があるからなのか、仕事の話をしているときもすごく楽しそうだよね。
古崎:自分で自由に動けるのがすごい楽しいの。アイドル時代に所属していた事務所は結構厳しくて、自由に人に会えなかったんだよね。仕事で知り合った人と飲みにいくことも、連絡先を交換することもできなくて。
でもその分、私は受動的で、仕事は事務所任せだったところはあるかも。仕事を取ってくるのは事務所だから、良くも悪くも自分に責任がないというか……。
大木:わかる。私も25歳で初めて会社員になったときに気づいたんだけど、先に入社していた新卒の同僚よりも、精神的に自立できてなかったんだよね。
アイドルのころは、「何かあっても、マネジャーさんが何とかしてくれる」っていう甘えと驕りがあったんだと思う。スタッフさんとのコミュニケーションは、マネジャーさんがほとんどやってくれてたし。振り返ってみると、仕事を通じて、一人の人とちゃんと向き合ってなかった。
でも会社員となると、そうはいかないよね。営業から納品まで全部自分でやらないといけない。大変だけど、そういう環境になって、初めて自分という人間を知れたんだと思う。きちんとした大人になれたのは、会社員を経験したからだって思ってるよ。
セカンドキャリアへの第一歩
古崎:いま道に迷っている人たちが、自分に合ったセカンドキャリアを見つけるにはどうしたらいいんだろう?
大木:自分のコンプレックスが魅力であることに気づくべきかもしれない。私も、「140字の文章が面白くても、それより長く書いたら面白いかなんてわからないじゃん」って思ってたし、ネガティブなことっていくらでも自問自答できるんだよね。
だから、自分に自信を持てない状況の人は、はっきり人に指摘してもらうのがいいかもね。「それ、コンプレックスと思ってるかもしれないけど、見方を変えてみたら長所かもよ?」って。
見方を変えることって、「リフレーム」って言うんだって。雨が降ったときに「最悪だ〜」って思うんじゃなくて、「道に咲いている紫陽花に気づけたからラッキー!」って思うみたいに。
古崎:それ、これから私が面談するときの参考にする(笑)。
大木:ひとみんはもうやってると思うけどね(笑)。でもさ、見方を変えることって、違う世界に入ってみないとわからなくなかった?
古崎:本当にそう! 個人的には、面接をするだけでも社会のことってわかってくると思うんだよね。
働くのがどんなことかって、一人で考えていてもモヤモヤするだけだと思う。でも、実際に会社の人から教えてもらうと、リアリティが出てきて、今までとはちょっと違う世界が見えてくる。それは私が経験したことでもあって。
だから、今悩んでいる人には、とりあえず一歩踏み出してほしいと思ってる。悩んでいるだけだと、何も始まらないから。
大木:昔芸能界である先輩に「待つのも仕事」って言われたことがあって。でも、今考えても、待つのは仕事じゃないと思う(笑)。待つ間に、自分でできることがあるはず。人生、9回裏まで結果は見えないから、勇気を出して行動してほしいなって思います!