インタビュー
なぜ「紹介できる求人はありません」と言われた元アイドルが、東証一部上場のIT企業に入社できたのか? 株式会社エイジア・谷理紗子さん
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『モーニング娘。』に憧れ、夢に向かって一直線に突き進んできた谷理紗子さん。25歳でアイドル活動を終えてから始めた就職活動に大苦戦。しかし最終的には、東証一部上場企業である株式会社エイジアの内定を獲得し、IT企業の経営管理部で新しいキャリアを歩み始めることになりました。アイドルからのキャリアチェンジを遂げた谷さんは今、何を思うのか? そして谷さんを受け入れた企業側の狙いとは?
<プロフィール>
株式会社エイジア 総務人事グループ 谷理紗子
2013~2018年までアイドルとして活動。2つのグループを経験し、リーダーを務める。月に30本前後のライブ活動のほか、動画配信、地上波TV出演、FMラジオメインパーソナリティなどを経験。2019年6月より株式会社エイジアに入社。
『モー娘。』に憧れて。1年で動画を400本アップした、夢に燃えたアイドル時代
ーー谷さんはいつ頃からアイドルを志していたのですか?
谷さん:物心ついたときには既にアイドルに憧れていました。幼稚園のときに『モーニング娘。』の影響を受けて、お母さんのブラシをマイクにしてドレッサーの前で踊っていたんです(笑)。高校までは地元の静岡で過ごし、「早く東京の大学に進学して、本格的にアイドル活動するぞ!」と意気込んでいたのですが、大学受験は全滅。高校の先生には浪人を勧められましたが、「1年浪人したらアイドルとしての賞味期限も1年減ってしまう!」と思い、3月入試を行っている大学を探してギリギリで受験し、なんとかその大学に進学しました。
ーー東京の大学に進学してから、アイドル活動を始めたのですね。
谷さん:はい。大学1年生の時にオーディションを受け始めましたが、大手の事務所ばかり受けていたので全然合格できず。結局地下アイドルとしてフリーで活動を始めたのですが、その後しばらくして事務所に入りました。
ーーアイドル時代はどのような活動をしていたのですか?
谷さん:3人グループで農業アイドルとして活動していました。そのとき私、農業検定2級を取ったんです。勉強熱心なところがあるので(笑)。農作物の育て方や環境問題などを勉強しました。でも、知識が浅すぎて。農業イベントに1回だけ出させてもらったのですが、何一つ答えられませんでした(笑)
農業イベントはそれ以降呼ばれなくなってしまいましたが、ライブやラジオを中心に活動していました。1番嬉しかったのは、私が最も尊敬している、憧れのアイドルの渡辺麻友さんとドラマで共演したことです。夢が1つ叶った瞬間でした。
農業アイドル解散後も、別のグループに所属して約1年半活動しました。CDを出したり、ラジオの準レギュラーになったり。たまーにテレビにも出ました!
ーー精力的に活動されていたのですね。かなり充実していたのではないですか?
谷さん:すっごく楽しかったです。本当に。毎日、「生きてる」って感じでした。あ、今もそうですよ(笑)
美濃社長:配慮を欠かさないね(笑)
谷さん:どの仕事も好きでしたが、1番はライブです。私推しのファンの方は緑のサイリウムを振ってくれるのですが、それがすごく綺麗で。いつも元気をもらっていました。農業アイドル時代は動画配信も頑張っていました。1年で400本くらいアップしましたね。家に帰ってスマホをつけて、カメラに向かって毎日「ただいま~」って。引いてます?(笑)
ーー大丈夫です(笑)。1年で400本も動画をアップするなんてすごいですね。めんどくさいと思ったことはないのですか?
谷さん:最初のうちは辞めたいと思うことも多かったです…。でも配信していると再生数が増えていくので、やりがいの方が大きかったですね。
ーーSNSで中傷されるようなことはなかったのでしょうか。
谷さん:ありましたよ。「ブス」とか、「頭弱そう」とか、「救いようがない」とか…。最初はめちゃめちゃ傷ついてました。でも、傷つくごとに心が強くなってきて。メンタルはすごい鍛えられましたね。
ーー25歳の時にアイドルをお辞めになりました。理由は何だったのでしょうか?
谷さん:いろいろありますが、1番の理由は年齢です。アイドル業界では25歳がターニングポイントになっていて、この歳で辞める人が多いんです。私も25歳になって自分の将来を真剣に考えたときに、「このまま続けて大丈夫かな?」と不安になりました。それに、私の親はアイドル活動を応援してくれてはいましたが、完全に賛成でというわけではなかったんです。しっかり親孝行したいなと思ったのも、辞めた理由の1つです。
ーー悩みもある中で、アイドル活動をここまで続けてこられたのはなぜでしょう?
谷さん:夢を叶えたいっていうモチベーションがあって、ずっと燃えていたからです。『地元静岡で斡旋ライブをする』ことを目標に突っ走ってきました。結局その夢は叶えられなかったんですけど、夢を叶えたい!という強い気持ちがあったから、ここまで続けてこれたんだと思います。
アイドルのスキルをビジネススキルに”変換”。強みを武器に面接へ
ーー就職活動はどのように進めたのですか?
谷さん:エージェントさんに仕事を紹介してもらおうと思って、大手の転職支援サービスに3つ登録しました。ところが、全然紹介してもらえなかったんです。ある会社からは「エステの受付と脱毛サロンの求人しか紹介できません」。別の会社からは「あなたの経歴で紹介できる求人は一つもありません」とメールが送られてきました。
ーーかなり厳しい回答だったのですね。
谷さん:はい。私は営業をやりたいと思っていたので、回答を見てがっかりしてしまいました。私がアイドルとしてやってきたことは、「職歴」としては全く認めてもらえないんだと実感しました。
美濃社長:せめて学歴を見てくれればね。彼女はすごいんですよ、静岡で1番の高校を出ていますから。
中北:そうですよね。高校はすごいし、大学もちゃんと出てるし、アイドルとして何百人もファンを作ったのに、大手エージェントはその実績を全く見ていなかったんです。ちなみに僕が芸人を辞めて転職したときに紹介された仕事は、タクシードライバーとビルの警備員でした。芸人としてのキャリアは完全に無視。谷さんもそうだったのではないかと思います。
谷さん:わかってはいたんですけど、現実を叩きつけられるとショックでした。そのときに、「そういえば昔、芸人ネクストを知り合いに紹介されたな」と思い出したんです。正直ちょっと胡散臭いって思ってたんですけど(笑)、連絡して、実際に中北さんに会ってみると、ちゃんとした方だということがわかりました。
ーー中北と会って、どんな感想を持ちましたか?
谷さん:1番嬉しかったのは、私を褒めてくださったことです。アイドルとしてやってきたことを聞いて、「それはすごいね」と。そんな風に言ってくれた人は初めてでした。大手エージェントを利用するのはもうやめて、芸人ネクストで就職活動をしようと決めました。
ーー芸人ネクストではどのようなことをしたのですか?
谷さん:まず、自分の強みを探っていくことから始めました。中北さんは私がアイドル時代に当たり前のようにやっていたことを、職務経歴書に書けるスキルに変換してくれたんです。「動画を毎日アップすることで培った継続力」とか、「ライブで身につけた初対面の人と仲良くできるコミュニケーション力」とか。
中北:ファンの方と握手していたときの対応力はすごかったですね。相手の性格を瞬時に見極めて、その人が喜んでくれるやり方で接していたんですよね。
谷さん:そうです。握手のときは触られるのが嫌な人もいるので、そう言う人には握手しないようにしたり。きっちりしてる方の場合は、「ありがとー❤︎‼︎」みたいなテンションだと逆に引かれてしまうので、「ありがとうございます」と丁寧にお辞儀をしたり。1回でも会いに来てくれたファンの方のことは、絶対に忘れないように、チェキにメッセージを書くふりをしてメモを取っていました。それから、中北さんが講師のビジネスマナー研修にも参加しました。
中北:名刺交換のやり方から勉強しましたね。
ーー名刺交換と握手は違いましたか?
谷さん:距離の詰め方が全然違います(笑)。実際に名刺交換をしてみると、私は相手に近ずきすぎていて(笑)。研修で聞くことができて良かったです。
ーーエイジアさんにはどのような経緯で入社することになったのでしょうか?
谷さん:最初は営業の求人を中心に応募していたのですが、エイジアは総務・人事に未経験で挑戦できるのが珍しいと思いました。人事には会社の花形のようなイメージがあって、ふんわりとした憧れを持っていたんです。内定をいただき、今年の6月に入社しました。
社長が期待した「雰囲気を変える力」。入社から半年足らずでスキルを発揮
ーー谷さんの面接を担当した清水さんにお伺いします。谷さんは最初どのような印象でしたか?
清水さん:物事をはっきり言う人だなと思いましたよ。流されるのではなく、自分の生き方をしっかり持っているのを感じて、普通とは違うなと。私はポジティブな人と働きたいと思っているのですが、彼女の「できるかできないかわからないけど、やってみる」という姿勢は素晴らしいなと感じました。
面接では、「動画を毎日アップし続けた」という話も聞きました。こういうアピールって今まで聞いたことがなかったのですが、継続できる芯の強さがある方なんだなと思いました。
ーー入社してから4ヶ月。一緒にお仕事をしてみていかがですか?
清水さん:総務・人事の仕事がどんなものかということを、一生懸命メモを取って学んでいますね。まずは給与計算とか基本的なことを、あきらめずに習得してほしいです。
谷さん:血眼になってメモを取ってます(笑)
清水さん:谷さんならやれると思いますよ。ただ、せっかくアイドルをやっていたのだから、それを活かさないのはもったない。ゆくゆくは彼女の経験が生きるような、人前に出る仕事もお願いしたいです。
あとは、総務・人事って話しづらい部署だと思われがちなのですが、谷さんの力でそれを変えてほしいですね。経営管理部ではこれから全社的なレイアウト変更が始まるのですが、全社員と関わる機会を持てるよう、谷さんにも参加してもらう予定です。
ーー美濃社長にお伺いします。会社として元アイドルの方を採用するのは初めてだそうですね。なぜ芸人ネクストを利用したいと思ったのでしょうか?
美濃社長:それはね、ちょっと会社の雰囲気を変えたいなと思ったんですよ。この業界ってエンジニアが多くて、黙々とプログラムを打っている人が多いんです。仕事柄当然ではありますけど…。でも、もしここに元芸人や元アイドルのような経歴を持つ方が加わってくれれば、静かな雰囲気をもっと華やかな空気に変えてくれるんじゃないかという期待がありました。
ーー谷さんのご活躍はいかがですか?
美濃社長:まだまだ力を持て余していると思いますね(笑)。入社の挨拶を聞いたときに、「こいつは違うわ!」と思ったんです。初日の自己紹介って、普通は緊張してまともにできないですよね? でも彼女は全くそんなことなくて、「みなさん、おはようございまーす♩」って(笑)。これはモノが違うなと。すごく堂々としていましたね。
谷さん:あれはめちゃめちゃ作り込んでいて、逆に会社の雰囲気に合わせようと思ってたんですけど…。アイドルが出ちゃってたんですね(笑)。
美濃社長:完全に出てたよ(笑)。谷さんが所属している経営管理部は比較的静かに仕事をしているので、その意味でもバーンとにぎやかにやってほしいですね。すでに雰囲気はかなり変わったと思いますよ。
ーーもうこの4ヶ月で、変化がありましたか?
清水さん:以前の雰囲気とは違いますね。みんなが仕事をやりやすい環境を彼女が作っていますよ。
美濃社長:谷さんは話しやすいんです。それがなぜなのか、口でいうのは難しいんですけど…。警戒感を持っていない感じとか、間の取り方とか、距離感が上手なんでしょうね。彼女みたいな社員が1人いるだけで、ムードがガラッと変わります。
ーー谷さん、すごいじゃないですか…!
谷さん:そんな風に思っていただけているとは知らなかったので、嬉しいです…! 今もですけど、特に入社したての頃はわからないことが多すぎて。しつこいくらい質問して、先輩の時間を使わせてしまっていました。だからすごく迷惑だろうなって思ってたんですけど、こんな私でも役に立てている部分があるんだと思えて、肩の力がすっと抜けました。ありがとうございます。
美濃社長:素質というか、才能ですよね。雰囲気を変える力って、アイドルの経験を通じて培ったものかもしれないけど、会社で教育してできるようになることではないですから、素晴らしいと思いますね。
ーー谷さんの今後の目標は何ですか?
谷さん:まずは、1人で完成できる業務を増やすことです。そしてビジネスパーソンとしての知識をつけて、年の離れた方とも対等にお話しできるようになって、会社の制度作りのようなクリエイティブな仕事にも参加していきたいです。
あとは、会社の顔である経営管理部を、今以上にイケてるグループにしていけたらいいなと思います!(笑)
美濃社長:ぜひよろしくお願いします(笑)
ーー最後に、アイドルを辞めて就職しようか迷っている方へのメッセージをお願いします。
谷さん:怖くても不安でも、挑戦してみることが大切だと思います。働いてみないとわからないことって本当にたくさんあって。私は就職して「今まで生きてきたのは、ある意味小さな世界だったんだな」と感じました。きっとどの会社に入ったとしても、アイドルの頃には学べなかったことが学べるし、成長できると思うので、一歩踏み出してほしいです。
アイドル活動は私の人生において、すごく貴重で価値ある経験でした。アイドルを本気でがんばってきた方には、ぜひそのことに自信を持っていただきたいです。
ーー谷さん、エイジアの皆さん、お忙しい中ありがとうございました!!
(取材、文、写真・一本麻衣)