インタビュー
芸能界は「辞めたら負け」じゃない! 30歳で引退した元グラビアアイドルが見つけた、自分を“生かして”働くキャリア。tvgroove・くぼたみかさん
ずっと夢を追いかけて生きてきた。でも就職したら、そんな自分は押し殺さなくてはーー。こんな思いから、就職を踏みとどまっている人は多いかもしれません。
ところが実際には、芸能界を辞めたあとも好きな仕事で輝き続けている人はたくさんいます。
今回お話を伺ったのは、4年前までグラビアアイドルとして活動していたくぼたみかさん。引退後は海外アーティスト等の情報を配信するtvgrooveに入社。著名人への英語インタビューなど、タレント業で培ったスキルを活かして活躍しています。
くぼたさんはなぜ、グラビアアイドルを引退しても、夢中になれる仕事を見つけられたのでしょうか?「芸能界は『辞めたら負け』と思われがちだけど、全然そんなことはない!」と力強く語るくぼたさんに、その理由を聞きました。
<プロフィール>
くぼたみかさん
東京都出身の元タレント、元グラビアアイドル。2010年よりケイダッシュステージに所属し、雑誌や映像作品、テレビ番組に多数出演。2015年に芸能界を引退。現在はtvgrooveにて海外エンタメニュースやインタビュー動画の制作に携わる。
(左:tvgroove代表・清水裕一さん、中央:くぼたみかさん、右:芸人ネクスト・古崎瞳)
「目立たなきゃ」芸能界のプレッシャーから解放され、将来を考えた1年間の休業
ーーくぼたさんは昔から芸能界に入りたかったのですか?
くぼたさん:そうです。子どもの頃から歌手に憧れていて、芸能人になりたいと思っていました。最初はイベントコンパニオンのアルバイトをしていたのですが、そこからレースクイーン、グラビアアイドルへと仕事が広がっていきました。
ーーどのぐらいの期間グラビアアイドルとして活動されていたのですか?
くぼたさん:デビューしたのは23歳のときで、30歳で引退しました。
ーーグラビアアイドルというと、「水着を着て写真を撮る」イメージなのですが、7年間どんな活動を?
くぼたさん:まさにイメージ通りで、水着を着てDVDの撮影をする仕事がメインでした。あとはバラエティ番組にもアシスタントとして出演していました。
テレビの仕事では「目立たなきゃ」と自分にプレッシャーをかけていました。魚が好きだったので、「水族館大好きアイドル」や「深海魚アイドル」を名乗ったりして、キャラ作りも頑張っていましたね(笑)。
ーー引退を意識するようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
くぼたさん:精神年齢が上がるにつれて、自分を全面に出すよりも誰かのサポートをしたいと思うようになったんです。あと、英語を使った仕事をしてみたいと思うようになりました。もともと海外が好きで、留学もしていたので。
そんなことを思い始めて30歳になったとき、父が倒れたんです。
ーーお父様が倒れられた…ご病気か何かだったのですか?
くぼたさん:そうです。治る見込みのない癌で。家族との時間に集中するために、芸能活動は1年間休業しました。
ーーお仕事のない1年間はどんな時間でしたか?
くぼたさん:事務所に所属していると、マネージャーからいつ連絡がくるかわからないんです。「明日オーディション行って」と言われることも多く、あまり自由はありません。そんな忙しい生活から解放されて、初めてゆっくり呼吸できたような時間でした。
そしてこれから何がしたいかを考えたときに、芸能に復帰するのではなく、新しいことをやってみたいと思ったんです。父は亡くなってしまいましたが、将来のことをゆっくり考えることができたので、仕事を休んだことはマイナスではなかったと感じています。
「タレントのキャリアも、英語のスキルも活かせる!」海外アーティストへのインタビュー
ーー芸能界を引退して、まず何をしましたか?
くぼたさん:tvgrooveでアルバイトをはじめました。今4年目で、去年から正社員として働いています。
ーーなぜtvgrooveで働きたいと思ったのですか?
くぼたさん:tvgrooveは海外アーティストの記事やインタビュー動画を配信するニュースサイトで、以前仕事でご一緒したことがあったんです。私が聞き手として、オースティン・マホーンに英語インタビューをする仕事をさせてもらったのですが、それがすごく印象に残っていて。
(2019年2月に再来日した際のインタビュー。2013年にくぼたさんが行ったインタビューについても触れている)
くぼたさん:テレビの前で喋るスキルが活かせるし、ずっと使いたかった英語も話せる。しかもそのインタビューが人の役に立っている感覚もあって、「これって自分のやりたいことだ!」と思ったんです。
清水社長:1人で面接を受けに来たのには覚悟を感じましたね。マネジャーさんを通じて打診してくるわけでもなかったので。
くぼたさん:覚悟はありました。もう絶対に雇ってもらいたいと思っていたので(笑)。
ーーtvgrooveでは現在どんな仕事をしているのですか?
くぼたさん:WEBサイトに掲載する記事や動画コンテンツの制作です。毎朝海外のニュースサイトをチェックして面白そうな記事を選び、そのアーティストの最新作や前回来日したときの情報などを加えて翻訳します。アーティストが日本に来るときは英語インタビューもします。
ーーどんな部分にやりがいを感じますか?
くぼたさん:私が昔マリリン・マンソンというロックバンドが大好きだったので、海外アーティストのファンの方の気持ちがわかるんです。「大好きだけど英語だから何言ってるかわからない!」と思っている人たちに、そのアーティストの言葉を届けられることにやりがいを感じます。
インタビューでは一生懸命勉強した英語が相手に伝わると感動しますし、記事や動画に反響があると、人の役に立てていると思えてすごく嬉しいですね。
ーーそうしたやりがいは芸能界では感じなかったものですか?
くぼたさん:グラビアの仕事をしていると、自分がどう人の役に立つかよりも、つい自分自身の完成度に集中してしまうんですよね。髪の毛の調子がどうとか、メイクがどうとか。もちろん芸能界の仕事もやりがいはありましたけど、今のほうがありますね。
ーー今のお仕事が非常に充実されている様子が伝わってきます。とはいえ、芸能界から一般企業への就職には、苦労されたこともあったのではないでしょうか?
くぼたさん:そうですね。翻訳はすごく頭を使いますし、画像の加工や動画の編集でいろんなソフトを使うので大変です。あとは情報収集など、日頃の準備が必要ですね。前の仕事は「朝起きて仕事に行く」みたいな感じだったので。
ーーグラビアのお仕事では、仕事に対する準備ってあまりしないものなのですか?
くぼたさん:強いて言うならダイエットが準備かもしれませんが、仕事のON・OFFがはっきりしていました。今は業務外でもTwitterをチェックしていて、良い記事を見つけたらあとで使えるようにスクショしておきます。グラビアのときと違って常に仕事モードですが、好きなことを仕事にしているので全然苦ではないです。
古崎:ビジネスマナーで苦労したことはありませんでしたか? 私はグラビアアイドルを辞めて一般の会社に就職したときに、メールに一番困りました。特殊な敬語や言い回しが難しくて。
くぼたさん:わかります! 送られてきたメールに「失念していました」って書いてあって。「失念って何?」と思って検索したり(笑)。
そういう世間では当たり前のビジネスマナーって、芸能界にいると全然わからないですよね。名刺交換はマネジャーがやるものでしたし。私の場合はメールの作り方から名刺交換のやり方まで清水さんが丁寧に教えてくれました。感謝しています。
ーー清水社長は芸能界出身の方を雇うことに、抵抗は感じませんでしたか?
清水社長:最初は感じましたよ。正直偏見もあったと思います。元芸能人の方は一体何ができるんだろうなと。はちゃめちゃなんじゃないか?という想像も少しはありました。でも自然と仕事を吸収してくれて、何の問題もなかったですね。
元芸能人の方を雇うのは、くぼたさんが2人目なんです。芸能界で過ごしてきた方は、「社会のことを何も知らない」という負い目を感じてしまっているからこそ、謙虚に学んでくれると思うんですよね。
元タレント社員は「チェンジよりコラボ」。芸能人の才能を活かすには
ーーくぼたさんの周りにも、グラビアアイドルを辞めて好きな仕事を始めた方は多いのでしょうか?
くぼたさん:もともとエステの資格を持っていて、それを活かして専門的な仕事をしている人は知っています。好きなことに関する資格やスキルがあると、次の道を見つけやすいのかもしれないですね。
ーー弊社は芸能界で夢を追いかけてきた人の就職を支援する『芸人ネクスト』というサービスを提供しています。元芸能人の方の就職について、くぼたさんはどう思われますか?
くぼたさん:芸能界にいると、「辞めると負け」って思ってしまいがちなんですが、今より幸せになれるような会社に入れたら、全然負けじゃないと思います。ほかに好きなことを見つけることが重要かなと。
ーー今日お話を聞いて、芸能界で身につけたスキルは会社でも活かせる部分がたくさんあるんじゃないかと思いました。
くぼたさん:そう思います! 私は芸能界の仕事を通じてコミュニケーション能力がつきましたし、肝が据わりました。今でもインタビューはすごく緊張して、真っ白になりそうこともあるんですけど、「どんなときでもきっとなんとかなる!」と思えるのは、芸能界の経験があるからだと思います。
ーー清水社長は元芸能人の方の就職についてどう思われますか?
清水社長:よくテレビでは、スポーツ選手のセカンドキャリアって取り上げられるじゃないですか。ユニフォームから背広に着替えて、「今日から営業マンです」みたいな。でも会社は無理にその人を枠をはめるよりも、その人が意欲を持って取り組めることをやってもらった方がいいと思います。
元芸能人の方なら人前に出たい気持ちあるわけなので、それを満たせるようなこと。例えば企業がオウンドメディアを作って、そこに出演してもらうことができますよね。
ーーなるほど、入社したからといって別人格になってもらうよりも、今まで培ってきたことを生かしてもらったほうがいいと。
清水社長:はい。くぼたさんもカメラ前のスキルは圧倒的なものがありますし。企業側は芸能人のことをもっと理解して、その人を「チェンジ」するのではなく「コラボ」した方がうまくいくと思いますね。
ーーありがとうございます。最後に芸能活動を辞めて就職を検討している方へ、くぼたさんからアドバイスをお願いします!
くぼたさん:一番興味があることは芸能界の仕事だと思いますが、“その次”に自分は何に興味があるのかを自分自身によく聞くことが大事だと思います。それさえ見つかれば、もう「勝ち」も同然。勉強も楽しいと思うし。仕事も頑張れると思います。
自分が活躍できる場所なんてないと考えてしまいがちだと思いますが、せっかく芸能界で夢を追いかけてきたのに、就職したからといって自分を押し殺して働くのはもったいないです。
芸能界で得たスキルを活かせる場所や、やりたいことができる会社はきっとあります。諦めずに次のステージを見つけてほしいです。
ーーくぼたさん、清水社長、ありがとうございました!
(取材、文、写真・一本麻衣)